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ピッチシフター

音声や音楽のピッチ(音の高さ)を変更する機能です。元の音声の速度や長さを維持したまま、音程だけを高くしたり低くしたりすることができます。多くの場合、ピッチシフトとタイムストレッチ(速度変更)機能は連動しており、片方を変更してももう片方に影響しないよう設定できます

ピッチシフターを解説するイメージ(監修・神野富三)

用途


音声トーンの調整

ナレーションやボイスオーバーの音程を調整して、より適切なトーンにできます


音楽の調整 

BGMの調子をプロジェクトの雰囲気に合わせて変更できます


エフェクト

特殊な声(例:ロボット声、子供っぽい声、怪物の声など)を作り出せます




この機能を搭載している代表的な映像編集ソフト


  • Adobe Premiere Pro

  • Final Cut Pro

  • DaVinci Resolve


仕組み


① 時間伸縮+再サンプリング(シンプル系)

  1. まず音を引き伸ばす(タイムストレッチ)

  2. そのあと再生速度を変えてピッチを調整

例えば「音を高くしたい」とき:

  • いったん音を長くする

  • そのあと速く再生して元の長さに戻す

こうすると、長さは元通りなのに、ピッチだけ上がる。

比較的シンプルですが、音質劣化が出やすい。



② 周波数解析系

こちらが現在の主流です。

  1. 音を細かい時間単位に分割

  2. それぞれを周波数成分に分解(フーリエ変換)

  3. 周波数を上下にずらす

  4. 再び音に戻す

イメージとしては、「音を高さごとの成分にバラして、全部まとめて上にスライドする」



なぜ難しいのか


単純に周波数を上げ下げすると、

  • 声の「フォルマント(声の個性)」まで変わる

  • 不自然なロボット声になる

  • 音がブツブツする

という問題が出ます。

そのため実際のソフトでは、

  • フォルマント補正(声質を保つ)

  • 位相の整合(位相ボコボコ防止)

  • 窓関数処理(滑らかにする)

など、かなり複雑な補正が入っています。

映像制作の現場から


ピッチシフターの使用は、本人の了解を


声の改変を前提に収録していない

企業VPやWeb動画の現場では、出演者やナレーターと厳密な契約書を交わすことは少なく、受発注書や慣習の中で制作が進みます。音声が編集されること自体は共有されていますが、声の高さや印象まで変わることを前提にして収録されることはほぼありません。話者は自分の声そのものが使われる前提で表現しています。


ピッチ変更は「補正」ではなく「表現の書き換え」である

ピッチシフターは、ノイズ除去や音量調整のような補正処理とは異なり、声の印象そのものを変えます。声の高さは年齢感や落ち着き、信頼感と結びついており、ピッチを変える行為は、話者の表現を別のキャラクターに置き換える操作に近いものです。これは聞き取りやすさの調整ではなく、演出的な改変だと言えます。


問題は、本人が想定していない改変であること

問題の本質は、法的な正誤よりも、話者が想定していない改変が行われる点にあります。編集側は完成度を上げる意図で処理していても、本人の認識とは異なる表現が出来上がることで、違和感や不信感が生まれます。これは技術の問題ではなく、合意の問題です。


ピッチシフターは、本人の了解を前提に扱うべき技術である

ピッチシフターは便利な編集技術ですが、編集者の裁量だけで使うべきものではありません。声の印象を変える以上、それは話者の表現に踏み込む行為です。実務においては、本人の了解を前提とした技術として位置づけることが、もっとも事故の少ない運用だと言えます。

執筆者・神野富三

名古屋の映像制作会社・株式会社SynApps代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして40年にわたり映像制作に携わりながら

​ビジネス映像制作のノウハウを伝承する「名古屋映像設計研究所」を主宰

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