とっぱらい
スタッフや出演者のギャラの支払いを、当日現金で行うことです。日本映画初期の業界では、制作進行さんは腹巻の内側に札 束の大金を持ち歩き、その日の現場が終わると、スタッフに手渡していたものだと聞いたことがあります。
「とっぱらい」は、今ではほとんど行われない支払い方法です。この方法が主流だった時代には、受け取る側も支払う側もどんぶり勘定で、源泉徴収票はもちろん、請求書、領収書も渡さず、税務当局に捕捉されないお金として、受け取った金額がそのまま身入りとなり、喜ばれていたと言います。
スタッフたちは、その日支払われたお金を握り締め酒場に繰り出し、制作進行は腹巻のお金で気が大きくなり、大判振る舞いをしたり、おおらかな時代があったものです。
映像制作会社としての視点
今は絶対に無理な理由
1. 所得税法(源泉徴収義務)
かつての「とっぱらい」は所得税の源泉徴収が行われていませんでした。
法律の定規
所得税法により、企業が個人に報酬を支払う際は、あらかじめ所得税を差し引いて国に納める義務があります。
今の現実
支払う側(会社)は「誰に、いつ、いくら払ったか」を税務署に報告する義務があり、これを怠ると会社側が重いペナルティ(不納付加算税など)を課されます。
捕捉の精度
現在はマイナンバー制度や銀行振込の履歴、会計ソフトの普及により、現金の動きを隠すことが事実上不可能になっています。
2. 消費税法(インボイス制度)
2023年に導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)が、とっぱらいにトドメを刺したと言っても過言ではありません。
法律の定規
支払う側の企業が「消費税の仕入税額控除」を受けるためには、一定の要件を満たした「登録番号付きの請求書(インボイス)」の保存が必須となりました。
今の現実
「請求書も領収書もない支払い」は、支払った企業側が消費税を余計に負担することになるため、経理上、絶対に認められなくなりました。
3. 下請法と帳簿備付義務
制作現場やイベント業界に関わる法律も厳格化されました。
下請法
親事業者は下請代金の支払いにおいて、書面の交付や記録の保存が義務付けられています。
会社法・法人税法
企業には、すべての取引を帳簿に記録し、一定期間保存する義務があります。
ポイント
昔の制作進行が「腹巻」から出していたお金は、今では「使途不明金」として扱われます。これは会社にとって税務調査で最も突っ込まれる「アウト」な項目です。

