top of page

認知バイアス

人間が物事を認識し、判断する際に生じる、無意識的な思考の偏りのことです。私たちは、常に膨大な情報に囲まれており、そのすべてを客観的に処理することはできません。そこで、脳は効率的に情報を処理するために、過去の経験や知識、感情などに基づいて、無意識のうちに情報を取捨選択し、解釈します。この過程で生じる思考の偏りが、認知バイアスです。

認知バイアスを解説するイメージ(監修・神野富三)

1. さまざまな認知バイアス


認知バイアスは、私たちの意思決定や行動に大きな影響を与えます。例えば、自分にとって都合の良い情報ばかりを集めてしまう「確証バイアス」や、過去の成功体験に固執してしまう「生存者バイアス」、集団の中で少数意見を言いにくくなる「同調バイアス」など、様々な種類の認知バイアスが存在します。



2. パーソナライズ機能との類似


これらの認知バイアスは、アルゴリズムによるパーソナライズと似ています。アルゴリズムは、私たちの過去の行動履歴や興味関心に基づいて情報を選択し、表示しますが、この過程で私たちの認知バイアスを増幅させてしまうことがあります。例えば、確証バイアスを持つ人は、自分にとって都合の良い情報ばかりを探し求め、アルゴリズムもそれに合わせて情報を表示するため、ますます自分の考えを強化してしまう可能性があります。



3.増幅する認知バイアス


また、認知バイアスは、フィルターバブルエコーチェンバーの形成にも影響を与えます。私たちは、自分と似たような意見を持つ人々が集まるコミュニティに居心地の良さを感じやすく、そのようなコミュニティに集まる傾向があります。これは、認知バイアスの一つである「集団思考」によるものです。集団思考とは、集団の中で少数意見を言いにくくなり、多数意見に同調してしまう心理現象のことです。フィルターバブルやエコーチェンバーは、集団思考によって強化され、さらに認知バイアスを増幅させるという悪循環を生み出す可能性があります。

映像制作会社としての視点


映像制作者が利用する認知バイアス


企業から発注を受けて映像をつくる、つまりビジネスで映像制作する私たちは、人間の「認知バイアス」を徹底的に利用します。
誤解のないように言えば、事実を捏造するという意味ではありません。人がどう理解し、どう判断するかという特性を前提に、構成を設計しているということです。映像は事実をそのまま映しているように見えます。

しかし実際に扱っているのは、視聴者の「認知」です。だからこそ、認知バイアスを理解せずに映像をつくることはできません。



初頭効果──最初に何を見せるか


人は最初に提示された情報に強く影響を受けます。いわゆる初頭効果です。
私は構成を考えるとき、まず「何から始めるか」を決めます。

実績から入るのか。課題から入るのか。あるいは人物の表情から入るのか。
同じ内容でも、冒頭の設計でその後の解釈はほぼ決まります。

これは偶然ではありません。意図的に設計しています。



フレーミング効果──どう言うか


同じ事実でも、言い方で印象は変わります。
「成功率90%」と「失敗率10%」は同じ意味ですが、受け取り方は違います。

ナレーション原稿、テロップ、グラフの見せ方。
私は常に「どの枠組みで理解してもらうか」を考えています。
事実は変えませんが、どの角度から提示するかは選びます。

これも明確にバイアスを利用しています。



ハロー効果──見た目が信頼をつくる


映像の質感は、内容の信頼性に影響します。
照明が整っている。画が安定している。デザインが整理されている。

それだけで「きちんとした会社だ」という印象が生まれます。
これがハロー効果です。

私は画づくりをするとき、情報の中身と同じくらい「質感」を重視します。
視聴者は、内容だけで判断していないからです。



感情ヒューリスティック──音楽が判断を動かす


音楽は事実を変えません。
しかし解釈を変えます。

緊張感のある音楽を敷けば問題提起になり、穏やかな音楽を敷けば安心感が生まれます。
視聴者は理屈だけで判断しているわけではありません。感情の状態が、そのまま評価に影響します。

私は編集段階で、音楽によって感情の方向を調整します。
これも明確に、認知の特性を利用しています。



同調バイアス──「みんな」を提示する


導入実績、利用者の声、数字。
「多くの企業が採用している」という情報は、それだけで安心材料になります。

人は多数派に引き寄せられます。
私は事例の配置や順番を設計しながら、その心理を前提に構成します。



利用と操作の境界


ここまで書いてきたことは、すべて実務で行っていることです。
私は認知バイアスを理解し、それを前提に映像を設計しています。

ただし、事実を歪めることはしません。
あくまで、正確な情報を「伝わる形」に整えるためです。

どこまでが設計で、どこからが操作か。
その境界を自覚しているかどうかが、制作者の倫理だと思っています。



映像は客観ではない


映像は客観的に見えますが、強く設計されたメディアです。
順番、言葉、音楽、質感。
それらはすべて、人間の認知の特性を前提に組み立てられています。

企業映像をつくる私の仕事は、情報を並べることではありません。
視聴者がどう理解するかを設計することです。

そのために、私は認知バイアスを利用します。
それが、映像制作という仕事です。

執筆者・神野富三

名古屋の映像制作会社・株式会社SynApps代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして40年にわたり映像制作に携わる

bottom of page