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黒子とは

黒子(くろこ)とは、表には出ず、陰で人や物事を支える人を指す言葉です。 もともとは歌舞伎などの舞台で、役者の衣装を直したり、小道具を渡したり、舞台上の物を動かしたりする「黒衣(くろご)」に由来します。

黒装束の撮影スタッフたちの写真

黒衣は全身を黒い衣装で包んで舞台に立ちます。もちろん、観客には見えています。しかし、「この人物は芝居の中には存在しない」という約束事があり、観客もその存在を意識せずに芝居を見ます。

つまり黒は、姿を隠すための色ではなく、「私はここにはいません」という記号です。


そこから、表舞台には立たず、陰で主役を支える人を「黒子」と呼ぶようになりました。

イベントやテレビ番組、企業活動などでも、「裏方」「縁の下の力持ち」に近い意味で使われています。

映像制作のスタッフも、まさに黒子です。

出演者のすぐ近くでカメラを回し、マイクを差し出し、照明を当て、進行を指示する。現場には大勢のスタッフがいるのに、完成した映像には原則として誰も登場しません。



画面で目にする黒子たち


近年テレビのロケ番組などを見ていると、画面に撮影スタッフの映り込みを目にすることが珍しくなくなりました。そして、ほとんどのスタッフが黒い服を着ています。カメラマンも音声もディレクターもADも黒。夏なら黒いTシャツに黒いパンツ、冬なら黒い上着。まるで撮影スタッフの制服です。私が映像制作の仕事を始めたうん十年前は、ここまで徹底していませんでした。

なぜ、撮影スタッフは黒装束になったのでしょう。



カメラが増え、スタッフが映り込むようになった


昔のENGなら、カメラの位置や撮影方向をある程度決め、その画角の外へスタッフが退避するのが基本でした。ところが現在は、カメラの小型化に加え、広角レンズやジンバルが使われ、複数のカメラが同時に回ることも珍しくありません。一台のカメラを避ければ済むとは限らない。突然カメラが振り返ったり、思いのほか広い画角で撮っていたりして、スタッフが画面に入ることも増えました。



黒子というお約束


そこで、歌舞伎の黒衣と同じ発想が、いつの間にか映像制作の現場にも定着したのだと思います。

「黒い服を着ている私は、画面の中の人ではありません」

黒を着ることで、出演者とスタッフを区別する。画面の隅に入ってしまっても、視聴者には「これは撮影スタッフだ」と分かります。黒だから映らないのではありません。映っていても、いないことにする。まさに黒子のお約束です。



撮影スタッフであることのアピール


一方で、黒装束には正反対の意味もあります。

「私は撮影の仕事をしています」という記号です。

黒い服を着て、インカムを着け、機材を持つ。それ自体が撮影スタッフらしいスタイルになりました。裏方として存在を消すための黒が、いつの間にか撮影スタッフであることを周囲に示す服装にもなっています。そこには、この仕事をしているという自負も、多少のアピールもあるでしょう。



もう一つは同調圧力


周りが全員黒なら、自分も黒を着る。「撮影現場では黒」という暗黙のドレスコードができれば、なぜ黒なのかを考えなくても黒を選ぶようになります。一人だけ違う色の服を着ていれば、それだけで目立ちます。

黒子は、本来「見えているけれど、いないことにする」ための約束事でした。ところが最近の撮影現場では、存在を消すための黒が、逆に「私は撮影スタッフです」と存在を示す記号にもなっています。

映像制作の現場から


「撮影現場では黒」がこれほど定着したのなら、そろそろ撮影スタッフのための「黒」を、誰か本気で作ってくれないでしょうか。

撮影スタッフの仕事は、見た目以上に体を使います。重い機材を持って歩き、しゃがみ、膝をつき、ときには走る。真夏の炎天下で長時間撮影することもあります。

それでも黒です。

ならば、夏でも熱を持ちにくく、汗をかいても乾きやすい。伸縮性があって動きやすく、しゃがんでも背中が出ない。機材に引っ掛かるような余計な金具はなく、生地が擦れても音が出にくい。洗濯を繰り返しても色褪せしにくい。


そして、クライアントの前に立っても、きちんとして見えること。

作業着ほど無骨ではなく、アウトドアウェアほどスポーティーでもない。機能的で動きやすく、それでいて撮影スタッフとして少し誇りを持って着られる黒。


胸元や袖に、会社やチームのワンポイント刺繍を入れてもいいでしょう。撮影内容によって付け替えられる小さなワッペンでもいい。

全身が黒で統一されているからこそ、こうした小さな印が意外によく目立ちます。

撮影現場では、スタッフもクライアントや出演者、その会社の社員など、多くの人から見られています。スタッフウェアを揃えることは、単なる服装の統一ではなく、制作会社や撮影チームのブランディングにもなります。


「撮影スタッフのための黒カジュアル」。

アパレルメーカーと映像制作会社が一緒に考えたら、案外面白いものができるのではないでしょうか。

最終更新日

2026年8月29日 9:07:22

執筆者・神野富三

名古屋の映像制作会社・株式会社SynApps代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして40年にわたり映像制作に携わりながら

​ビジネス映像制作のノウハウを伝承する「名古屋映像設計研究所」を主宰

 執筆者ブログ「映像制作ガイドブック」

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