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カット編集

もともとカットとカットをトランジションを用いずに編集する作業でしたが、ノンリニア編集では、「カット編集」はクリップ内のNG部分を削除(カット)することを指します

カット編集を解説するイメージ(監修・神野富三)

従来「カット編集」とは、映像編集において、ディゾルブやワイプといったトランジション(画像の切り替わりに用いられる効果)を介さずに、直接カットとカットを接続する手法だけを用いて行う編集作業のことを指しました。

トランジションが映像の切り替わりに「のりしろ」を与えるのに対し、カット編集は、前後をトリミングした素材同士をダイレクトに繋ぎ合わせます。

ほぼ同義語として「カットつなぎ」があります。



背景


テープ編集時代のオフライン編集機材では、A→B編集で「カットつなぎ」することしかできませんでした。つまりこれが「カット編集」です。このカット編集により仮編集したものを、本編集(オンライン編集)でトランジションなどの効果を付加して完成させていた経緯があります。



映像編集の基本「カット編集」


トランジションを使用せず、カットつなぎのみで構成する本来の意味の「カット編集」は、カット割りや映像編集の基礎を習得する上でとても有意義です。基本的な映像技法では、トランジションは文章における接続詞のようなもので、接続詞(トランジション)がなくてもつながるカット割がこそが重要だと考えます。さまざまな芸能や創作において「無駄を削ぎ落とす」ことが重視されるように、シンプルなカットつなぎのみで映像作品を構築することは、熟練した演出者の矜持でした。


映像編集の本質は、「コンティニュイティ(連続性)」という要素を、人間の心理や認知バイアスから引き出す、文学的あるいは哲学的な側面にあります。映像の真の力が、観客が自律的に意味や繋がりを認識することによって生まれると考えるならば、装飾的な要素を排した「カット編集」こそが、高度で洗練されたメッセージ性を実現するからです。


映像制作の現場から


操作手順としての「カット編集」への変容


現在、インターネット上の解説や生成AIが提示する「カット編集」の定義は、ほぼ100%が以下の内容に塗り替えられています。


現代の定義: 動画素材の中から不要な部分を削除(トリミング)し、必要なシーンを前後につなぎ合わせる作業。


この変化の大きな要因は、Adobe Premiere Proを代表とする「ノンリニア編集ソフト」の普及です。ツールのチュートリアルにおいて「クリップを切り取る操作」が「カット編集」と名付けられたことで、生まれて初めて編集に触れる層にとって、この言葉は「不要部分を間引くための操作法」として定着しました。



概念の構築から素材の清掃へ


この定義の変化は、単なる言葉の言い換えではなく、映像制作の「設計思想」の変化を意味しています。


従来: バラバラのショットから文脈を編み上げる「構築(ビルド)」の思考。


現代: 一本の長い素材からゴミを削ぎ落として純化する「清掃(クリーニング)」の思考。


かつてのカット編集における「接続部(カットポイント)」は、新しい意味を生むための「仕掛け」でしたが、現代の解釈では、単に「削除した痕跡」へと意味合いが縮小しています。



情報社会とAIによる「常識の上書き」


現在、WEB上の情報や生成AIの学習データは、この「操作法としてのカット編集」という新解釈で埋め尽くされています。プロダクション経験を持つ世代が知っている「カットつなぎの美学」という解釈は、もはや検索結果の表層には現れず、歴史の影へと急速に追いやられています。

言葉の定義がテクノロジーの操作マニュアルに準拠する形で再定義され、それがAIによって増幅・固定化される。私たちは今、映像技術の常識が、本人の自覚がないままに「アップデート」ではなく「上書き」されている、過渡期の中にいます。

執筆者・神野富三

名古屋の映像制作会社・株式会社SynApps代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして40年にわたり映像制作に携わりながら

​ビジネス映像制作のノウハウを伝承する「名古屋映像設計研究所」を主宰

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